「ファクタリング契約を結んだのに、後から“返済義務がある”と言われた……」
ファクタリングの契約時に、そんなトラブルの原因となるのが「償還請求権あり」の契約形態です。
償還請求権を付けられてしまうと、将来的に大きな負担を強いられる可能性がある他、ファクタリングで得られた資金を失う危険性も発生します。
償還請求権を付けられるファクタリングというのは、場合によって悪質業者の可能性も十分あります。本当に契約してもいいのかしっかり理解してから、サービスを利用するようにしましょう。
この記事では、ファクタリング契約で行われる償還請求権について説明します。
ファクタリング契約の償還請求権とは
ファクタリングにおける償還請求権とは、売掛金が回収できなかった場合に、ファクタリング会社が利用者へ返還を求める権利のことです。読み方は「しょうかんせいきゅうけん」です。
ファクタリング契約では、債権譲渡によってファクタリング会社に売掛債権を譲ることになります。しかし、譲り受けた債権が支払われないことにより、本来であれば受け取れるはずの金銭が会社に入らないことになった場合、遡って金銭を請求することが可能になります。
適用されてしまった場合、ファクタリングを利用した人は売掛金が支払われなかったことで、売掛金の穴埋めを要求されることになります。基本的にはファクタリングによって支払った金額をすべて返すように求められることが多くなっていますので、利用したファクタリングに意味がなくなってしまいます。
売掛先は信頼している会社だと判断しているのは間違いありませんが、数ヶ月の間に倒産するということも珍しくありません。倒産されてしまった場合に償還請求権が存在してしまうと、ファクタリングで支払った金額はすべて返さなければなりません。大きな負担とともに信用にも影響が及ぶ問題となってしまいます。
なお、償還請求権のことをリコースと呼ぶことがあります。償還請求権ありのファクタリングをリコースファクタリング、償還請求権なしのものをノンリコースファクタリングと呼びます。
償還請求権の有無によって、ファクタリングの契約内容やリスクは大きく変わります。特に償還請求権あり(リコース)と償還請求権なし(ノンリコース)では、万が一売掛先が倒産した場合の責任の所在がまったく異なります。
ここでは、両者の違いをわかりやすく表にまとめました。
| 比較項目 | リコースファクタリング(償還請求権あり) | ノンリコースファクタリング(償還請求権なし) |
|---|---|---|
| 売掛先から入金がない場合 | 利用者が支払う責任を負う | ファクタリング会社がリスクを負う |
| 実質的な契約形態 | 融資に近い | 売掛債権の売買 |
| 手数料 | 比較的低い | やや高め |
| リスクの所在 | 利用者側 | ファクタリング会社側 |
| 一般的に採用している業者 | 銀行・貸金業者など | ファクタリング専門業者 |
| 法的リスクや返済義務 | 債務不履行時に返済義務あり | 基本的に返済義務なし |
このように、ノンリコース契約は利用者のリスクが低く、資金調達後の返済義務もありません。
一方で、リコース契約は一見すると手数料が安く見えますが、売掛先が倒産した場合に大きな負担を背負うリスクがあります。
安全性を重視するなら、償還請求権なし(ノンリコース)のファクタリング契約を選ぶことが基本です。
償還請求権あり(リコースファクタリング)と償還請求権なし(ノンリコースファクタリング)の違いは以下の通りです。
それぞれ順に解説します。
償還請求権あり(リコースファクタリング)
償還請求権があるものはリコースファクタリングという名称が使われることもありますが、名称を採用しているかどうかはファクタリング会社によって違いがあります。リコースファクタリングの場合、売掛金がファクタリング会社に支払われるまでは利用契約が終わったとは言えません。
リコースファクタリングを採用している会社としては、一般的なファクタリング会社ではなく、銀行や貸金業者が提供しているサービスに多くなっています。また、強制的に償還請求権が付けられることによって、売掛先からお金が払われなかった場合は金銭を弁済するように求められてしまいます。
過去にはリコースファクタリングが債権買取という扱いを受けていない判例が存在しており、リコースファクタリングを利用している人は融資を受けているものと同じ扱いになっています。つまりファクタリングによって支払う手数料は利息として計上されることになり、年間で15%程度の数字を支払うことになってしまうのです。
銀行や貸金業者が提供しているサービスを避けることによって、リコースファクタリングを使わない方法がありますので、償還請求権を回避したい時は別の会社を利用することを検討したほうがいいでしょう。
償還請求権なし(ノンリコースファクタリング)
償還請求権なしとされているファクタリングは、一般的にノンリコースファクタリングという名称が使われており、売掛債権を譲渡することによってファクタリングを成立させる方法となります。
ファクタリングに特化しているサービスを提供している業者は、基本的にノンリコースファクタリングを採用していますので、売掛債権を譲渡したとしても償還請求権が付けられることはありません。安心してファクタリングができる環境がしっかり整備されているのです。
また、ノンリコースファクタリングを採用している場合には、売掛先が倒産するなどして売掛金が支払われない状況になったとしても、利用している人に対して支払うよう求められる心配はありません。倒産した場合はファクタリング会社が責任を取ることになっています。
なお、ノンリコースファクタリングの場合は手数料がそのまま手数料として適用されることになっており、ノンリコースで採用されている利息という扱いは受けません。
ファクタリングは償還請求権なしで契約可能
ファクタリングは償還請求権がなければ契約できないと思われていますが、実際には償還請求権なしでも契約できるようになっています。現にファクタリングを専門として提供しているサービスの場合、償還請求権なしでサービスを提供しています。
銀行や貸金業者が提供しているファクタリングの場合、償還請求権を付けられてしまう可能性はあるものの、ファクタリングを専門としている会社を利用していればほぼ償還請求権はありませんので、安心してファクタリングを実施できるようになっているのです。
償還請求権がないことによって、倒産などのリスクが生じたとしても支払義務は生じませんので、ファクタリングの資金を受け取った時点でほぼ安心できる状態が生まれます。代わりに手数料を高くしているケースはあるものの、手数料の高さと償還請求権の問題を考慮すると圧倒的に手数料を払うほうが有益だと判断できます。
現時点では償還請求権を付けなければファクタリングできないというわけではありませんので、勝手に償還請求権をつけられるようであれば、そもそも償還請求権を導入しないファクタリング会社を利用したほうが安心して契約できます。将来のことを考慮してサービスを選ぶことが重要になってきます。
償還請求権ありのファクタリング業者は違法の可能性
償還請求権ありのファクタリングは銀行や貸金業者で実施されているのは間違いありませんが、実は違法とされているファクタリング業者が中に含まれています。
違法とされている業者の主なものは闇金です。闇金では償還請求権をつけることによって、売掛金が回収できなかった場合は全額の返済を求めてきます。また、償還請求権をつけているにもかかわらず、明らかに利息が膨大になっているという問題が発生しているのです。
特に闇金系業者の場合は、本来ファクタリングでは適用されないような金利を提示してくる場合があります。金利によって膨大な利息を回収すると同時に、売掛金を回収できない場合には容赦なく償還請求権を活用してお金を返すように求めるようにするという違反行為を実施しています。
ファクタリングの危険性を減らすためには、ノンリコースファクタリングを採用している業者を利用するのが何よりも重要なポイントとなっています。また、ファクタリングには専門の業者がいることも間違いないことですので、どうしても資金調達が必要になっている時は専門の業者を利用することをおすすめします。
償還請求権があるファクタリングを利用するメリットやデメリット
償還請求権があるファクタリングは、利用者が売掛先の未払いリスクを負う契約形態であり、一見すると敬遠されがちです。しかし、実際にはメリットとデメリットがはっきりしており、適切に理解して選べば選択肢のひとつになり得ます。
最大の特徴は「リスクの所在が利用者側にある」点で、その分だけ手数料が低く設定される傾向があります。資金調達コストを極力抑えたい企業にとっては魅力といえます。一方で、売掛先が倒産した場合には利用者が返済を求められるため、実質的には融資に近い特性を持ちます。
資金繰りが厳しい状況で誤って契約すると、後から多額の返済を迫られ、状況を悪化させるリスクもあります。そのため、償還請求権ありのファクタリングは、売掛先の信用力が非常に高く、未払いの可能性がほぼないケースでのみ検討するべき選択肢です。
償還請求権があるファクタリングを利用するメリットやデメリットは以下のとおりです。
それぞれ順に解説します。
メリットは手数料が低く調達コストを抑えられる
償還請求権ありのファクタリングが持つ最大のメリットは手数料が安いことです。
ファクタリングの手数料は、売掛金の未払いリスクを誰が負うかによって大きく変わります。償還請求権ありの場合は、未回収リスクを利用者が負担するため、ファクタリング会社側のリスクは小さくなり、その分だけ手数料を低く設定できる仕組みです。結果として、ノンリコース(償還請求権なし)よりも1〜5%ほど手数料が安くなるケースが多く、調達コストを抑えるための選択肢として成立しています。
また、手数料が低いため、繰り返し利用する場合にも負担が軽く、特定の優良な売掛先に対して安定した取引がある企業には相性が良いとも言えます。売掛先の信用が盤石で、未払いの可能性がほぼゼロに近いケースであれば、コスト重視で償還請求権ありを選択することにも合理性があります。
デメリットは売掛先倒産時に返済義務が発生する
償還請求権ありファクタリングの最大のデメリットは売掛先が倒産・未払いになった場合、利用者が返済義務を負うという点です。
本来ファクタリングは売掛債権を売却して資金化する仕組みであり、融資とは異なります。しかし、償還請求権が付いている場合は、売掛金が入金されなければ利用者がその分を返済しなければならず、実質的には融資とほぼ同じリスク構造になります。この返済義務は事業者にとって極めて重く、資金繰りが逼迫している状況では致命的な負担となることがあります。
また、手数料が安いことから誤って契約してしまい、後になって返済義務の存在を知るケースも少なくありません。さらに、契約内容が複雑で理解しにくい場合もあり、悪質業者が高金利の貸付と同等の行為を償還請求権付きファクタリングの名で提供している例もあります。慎重に判断する必要がある契約形態です。
実質「融資扱い」と判断されるケースがある
償還請求権ありのファクタリングは、契約内容によっては「売掛債権の売買」ではなく、実質的に融資とみなされるケースがあります。
前述したとおり、実際に過去の裁判では、償還請求権が付いた契約が貸付行為に該当すると判断された例もあります。その場合、ファクタリング手数料が利息として扱われ、利息制限法の上限を超える“違法金利”となる可能性もあります。
契約前に、返済義務の有無を必ず確認しましょう。
償還請求権がないファクタリングを利用するメリットやデメリット
償還請求権なし(ノンリコース)ファクタリングは、売掛先が倒産しても利用者に返済義務が発生しない契約形態で、現在主流となっている資金調達方法です。
ファクタリング会社が売掛先の未払いリスクを負うため、利用者は「売掛金を売却した時点で契約が完結する」というシンプルで安心度の高い仕組みを享受できます。資金繰りが急ぎの企業や、不確実な取引が多い業種にとっては、万が一の負担を避けられる点は大きなメリットです。
一方で、リスクをファクタリング会社が背負うことから、手数料はリコース(償還請求権あり)に比べて高くなる傾向があります。ただし、倒産時の返済リスクを考えると、ほとんどの事業者にとってノンリコースの方がトータルで安全かつ合理的な選択といえます。特に初めてファクタリングを利用する場合は、ノンリコース契約を選ぶことが基本です。
償還請求権がないファクタリングを利用するメリットやデメリットは以下のとおりです。
それぞれ順に解説します。
メリットは返済義務がなく安全に資金化できる
償還請求権なしファクタリングの最大のメリットは売掛先が倒産しても返済義務が一切発生しないことです。
利用者から見れば、売掛金を“売った時点で完全にリスクが消える”ため、融資とは異なる安全性の高い資金調達方法となります。企業は入金を待たずに現金化できるだけでなく、その後の経営リスクを抱える必要もありません。資金繰りが不安定な事業者や、売掛先の信用状況にバラつきがある業種では、特にこのメリットが大きくなります。
また、契約の透明性が高く、悪質な返済請求を受けるリスクもなくなるため、法的トラブルの防止にもつながります。初めてファクタリングを利用する人や、売掛先に不安があるケースでは、ノンリコースを選ぶことで安心して資金調達を行うことが可能です。
ファクタリング会社の審査が柔軟で早い
償還請求権なし(ノンリコース)ファクタリングは、売掛先の信用を重視するため、利用者自身の信用状態が多少悪くても審査に通るケースがあります。赤字決算・債務超過・税金滞納がある企業でも利用できる場合があり、銀行融資に比べて圧倒的に柔軟です。
また、審査スピードが早く、最短即日で資金化できる点は大きなメリットです。緊急の資金繰りにも対応しやすいのが特徴です。
デメリットは手数料が高めになりやすい
ノンリコースファクタリングのデメリットは手数料が高くなりやすい点です。
売掛先の未払いリスクをファクタリング会社が負うため、リスク分として手数料に上乗せされる仕組みとなっています。具体的には2社間ファクタリングだと10〜20%程度、3社間ファクタリングでも数%〜10%ほどになるケースが一般的です。ただし、手数料が高いと言っても、売掛先倒産時の返済リスクを完全に排除できることを考慮すれば、リスクコストとして合理的な範囲ともいえます。むしろ、手数料だけを優先して償還請求権ありを選び、後になって返済を求められるほうがはるかに危険です。
また、近年は競争の激化により、優良なファクタリング会社では手数料が比較的抑えられてきています。コストとリスクを総合的に判断し、安全性を優先するならノンリコースが基本です。



